
第百四章:八騎夜行 〜裏八騎衆:その四・人の可能性〜
「519」
<八騎衆>。
戦国乱世において常勝不敗を誇った最強の戦闘集団であり、
八人がそれぞれ一軍に匹敵する実力を持っていると言われている。
今、大江戸城に、その内の頭領を欠いた七人の<八騎衆>が姿を現した。
「J兄様………。」
「頭領………。」
「Jチュワン………。」
<八騎衆>の頭領、<J>。
その、自身の存在を賭した壮絶な生き様に、<八騎衆>の面々は言葉を失っていた。
<J>が命を懸けて守ろうとした存在、<美兎>。
<八騎衆>の面々はそれを否が応にも意識してしまう。
ある者は嫌悪を、ある者は憎悪を、そしてある者は殺意を。
<八騎衆>の誰もがやり場の無い感情を抱いていた。
最早、<J>はこの世に存在せず、
<八騎衆>の面々は、唯、<J>の遺志を継ぐ為に闘う事を決意する。
それ即ち、<美兎>を手に入れる事。
「とりあえず、美兎さんには尼さんにでもなって貰いましょうか。
J兄様の墓前で一生を終えるなんて幸せだと思うんですよねぇ〜♪」
「私が頭領の遺志を果たす。 美兎を闘いの場に駆り出すものは不要。
まずは美兎新撰組とやらを、次に江戸幕府を、このキスイが全てを潰して見せる。」
「あらあらン。 若いって良いわねぇ〜ン。
で・も♪ アタクシもちょぉ〜っとムカついちゃってるし、参加させろやゴルァ。」
<凛>が、<キスイ>が、<ヤーガ>が。
心中で荒れ狂う怒りの奔流に呑み込まれ、全身から闘気を迸らせる。
「ケッ。 どいつもこいつも、J大好きっ子で嫌ンなるぜ。」
そこへ、吐き捨てる様な呟きを投げ掛けたのは、<彗>だ。
「………彗さぁん。 私に喧嘩売ってるのかなぁ〜?」
「あン? 闘るってのか、無音殺天。 俺は最ッ高に胸糞悪いんだ。
返品不可で良けりゃ、とびっきり高値で売ってやるぜ?」
「良いですよ。 殺してあげます、狂乱荒神っ!!!」
<凛>と<彗>、一触即発の雰囲気を撒き散らす二人だったが、
次の瞬間、両者の間に、一人の男が無造作に足を踏み入れた。
「よさぬか。 お主らの鬱憤、晴らすべきはこの場では無かろう?」
「禍火さん………。」
「ハッ! こりゃまた珍しい事だな、拳皇大聖。
お前の声を聞くなんざ、何年振りの出来事だよ?」
拳皇大聖(けんおうたいせい)・禍火(まがつひ)。
滅多に口を開く事の無い寡黙な男にして、
<八騎衆>の中でも一・二を争う強さを持った拳士。
「しかし、皆が心の昂ぶりは承知。 ならば、今こそ、八騎夜行と征こうぞ。」
<八騎夜行(はっきやこう)>。
その言葉を聞くと同時に、<凛>と<彗>、二人は獰猛な微笑みを浮かべた。
<八騎衆>による敵の完全殲滅を意味する作戦名、<八騎夜行(はっきやこう)>。
かつて、それが敢行された際、
たった八人を相手にした地方の有力大名が一夜にして城と共に滅んだ。
「八騎夜行かぁ〜。 良いですね。 好き勝手に暴れるのは久し振りですよぉ〜。」
「頭領の無念、キスイが晴らしてみせます。」
「殺すわン。
Jチュワンが居ない世界で生きてる人間なんて、ドイツもコイツも皆殺しよン♪」
「良いね、良いな、良いぞぉぉぉっ!!!
美兎新撰組と御庭番衆、全員を喰い尽くし、この国をぶっ潰してやンぜ。」
「八騎夜行。 我らによる断罪の祭り也。
Jへ向けた弔い、幾千幾万の屍を築く事でなすとしようぞ。」
<凛>が、<キスイ>が、<ヤーガ>が、<彗>が、<禍火>が。
凶悪なまでの殺意を撒き散らす。
ゾクゥゥゥッ!!!
それを間近で見ていた<やじうし>は、
殺意の余波だけで背筋が凍る程の恐怖を覚えていた。
「これが八騎衆っスか。
おそらく、いや、間違い無く、現時点でこの国最強の戦闘集団ってのも頷ける。」
そこまで言って、<やじうし>は<奈落の間>の入り口へ視線を向ける。
「………が、それでも、美兎新撰組は負けてないっスか。」
視線の先、そこに居たのは<D>と<ココア>。
「J………、逝ったか。」
「ええ。 八騎衆は残り七人ですね。」
<D>が『鬼神』を、<ココア>が『セント・デュエルスピア』を、
それぞれに構えて呟く。
「伊賀の剣豪に聖騎士、美兎新撰組の有象無象がお出ましだ。」
<彗>が禍々しい微笑みを浮かべる。
「私が殺ります。 各々方、手出しなさりません様に。」
一歩、<キスイ>が前に進み出た。
「ちっ。 ああ言う逆上せ上がった馬鹿を殺すのは好きなのに、よ。」
「ぶぅ〜っ! キスっち、ず〜る〜い〜っ!!!」
<彗>と<凛>が不満の声を上げた刹那。
フ………ッ!!!
<キスイ>の姿が掻き消えた。
ヒュオッ!!!
次の瞬間、<D>が『鬼神』を無造作に振るう。
ガギィィィンッ!!!
辺りに響き渡る金属音。
<D>の斬撃が<キスイ>を捉え、<キスイ>がその斬撃を刀で受け止め、
両者の間に激しい火花が飛び散っていた。
………と、そこへ、<ココア>の『セント・デュエルスピア』が振るわれる。
ビュンッ!
「っ!!!」
ドゴッ!!!
鈍い打撃音と共に折れ曲がる<キスイ>の身体。
そのまま、彼女は<奈落の間>の扉を突き破って吹き飛んで行った。
「………へえ。」
<彗>が。
「やるじゃな〜いのン♪」
<ヤーガ>が。
「あらら。 キスっち、大丈夫ですか〜?」
<凛>が。
「良き一撃也。 此度の八騎夜行、楽しきものとなりそうだ。」
<禍火>が。
「(◎皿◎)。」
<朱鷺>が。
「………。」
そして、<八騎衆>最後の一人が。
六者六様の反応を示す中、
<D>と<ココア>、二人は得物を構えたままに裂帛の気合を放って叫ぶ。
「美兎を泣かせた八騎衆ってのは、お前らだな?」
「この大江戸城から五体満足に出られると思わない事ね。」
その言葉に、<八騎衆>の六人が一斉に苦笑を浮かべた。
「………何がおかしい?」
「言って置くけど、私達は本気………。」
<ココア>の言葉は最後まで紡がれる事は無かった。
ガッ!
「なっ!?」
ガッ!
「えっ?」
不意に、背後から頭を掴まれる<D>と<ココア>。
ドグワッシャアアアンッ!!!
………と同時に、二人の頭が床に叩き付けられる。
「やってくれますね、伊賀の剣豪に聖騎士。
ですが、私を捉えるには、修練が足りませんよ。」
なんと、そこに居たのは<キスイ>だった。
先程に攻撃を受けたとは思えない程の身のこなしで宙を舞い、床の上に降り立つ。
「ぐ………っ! 馬鹿な。 お前、さっきぶっ飛ばした筈。」
「じゃあ、扉の向こうまで飛んで行ったのは………?」
<D>と<ココア>、二人が視線を向ければ、
そこには粉々に砕けた扉の破片に埋もれる<キスイ>の姿があった。
パシャンッ!
不意に、その<キスイ>の身体が水に変わる。
「「っ!?」」
驚愕の表情を浮かべる<D>と<ココア>。
「自己紹介と行きましょうか。 初めまして、伊賀の剣豪と聖騎士。
私は鬼に水と書いてキスイ、水を操る機代の呪術師(ブーディスト)です。」
優雅な仕草で一礼をする<キスイ>は、
その物腰に不釣り合いな程に禍々しい気を纏っていた。